浅草の記憶、丼の粋──雷門三定の上天丼」 | 料理の撮影は長年の経験を活かすラ・クレアシオン | Blog

ぴあ発行の『東京老舗名店』の取材で、浅草・雷門三定の上天丼を撮影した。 　

創業は天保年間。雷門の目の前という立地にあって、観光客の賑わいの向こうに、静かに積み重ねられた江戸の味の記憶がある。 　

撮影したのは、海老、白身魚、小かき揚げという構成の上天丼。 　

衣は淡く金色を帯び、油の香がほのかに立ち上る。海老の姿には張りがあり、白身魚はしっとりとした厚みを湛える。小かき揚げの細やかな生地には職人の手の確かさが見える。長年の経験が一瞬の油温に凝縮され、火と油の加減だけで仕上げるその技が、この丼に品格を与えている。 　

撮影では、衣の質感と油の光沢をどう見せるかを重視した。 　

光を正面からではなく斜めにあて、表面の凹凸を生かす。

影の濃淡によって、揚げたての軽さと温度を写し取る。料理が声を発する瞬間を逃さぬよう、シャッターを切った。 　

雷門のすぐそばで、百年以上にわたり変わらぬ音が油の鍋から響いている。 　

華やかさよりも静かな誠実さを映す一杯。 　

その空気を、写真というかたちで残した。

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