老舗とんかつの撮影方法|上野ぽん多のカツレツ撮影で考えた料理撮影の光と質感表現
ぴあ発行の『東京老舗名店』の取材で、上野のぽん多のカツレツを撮影した。
ぽん多本家(東京・上野広小路)は、1905年創業の老舗洋食店である。宮内省大膳寮で西洋料理を司っていた初代が「ご飯に合う洋食」を理念に始めた店で、東京の老舗の中でも特別な存在として知られている。料理撮影の現場として考えても、こうした歴史を持つ料理は単なるメニュー写真とはまったく違う向き合い方が必要になる。店の空気、料理の思想、長い時間の積み重なりまで含めて、写真でどう表現するかを考えることになる。
今回のカツレツは、とても繊細な衣が特徴だった。この衣の質感を表現しないことには、この料理を撮影する意味がない。さらに、断面の瑞々しさも重要な要素になるため、箸で持ち上げて断面を見せる構図にした。撮影はカウンターで行われ、ストロボの位置はかなり制限されていたが、衣の表面と肉の断面の両方に光が当たるギリギリの位置を探してセッティングした。料理撮影では、ライティングの自由度が低い現場ほど、光の角度と距離の調整が写真の完成度を大きく左右する。
ぽん多には白洲次郎が贔屓にしていたという逸話も残っている。食べ終えたら長居せずに店を出たという話は有名で、店の空気にもどこか緊張感と品の良さがある。料理写真も同じで、過剰な演出や派手なライティングはこの店の料理には合わない。華やかに見せるのではなく、静かな誠実さをどう写すかが重要になる。
カツレツ自体も非常に独特で、厚みを抑えたロースの芯だけを使い、脂身を丁寧に取り除きながら赤身の旨味を残す揚げ方をしている。衣は軽く、肉の旨味を邪魔しない。この料理はボリュームや迫力を見せる料理ではなく、技術と丁寧さを味わう料理である。つまり写真でも、ボリューム感よりも質感、油の重さよりも軽やかさを表現する必要がある。料理撮影では、料理の特徴を理解せずにライティングや構図を決めてしまうと、その料理らしさが写真に出なくなる。
料理撮影は、料理を綺麗に写す仕事ではなく、料理の性格を写す仕事だと思っている。派手な料理なら派手に撮る、静かな料理なら静かに撮る。すべて同じ撮り方にしないことが、料理撮影ではとても重要になる。
華やかさよりも、静かな誠実さを映す一皿。その空気を、写真というかたちで残した。料理撮影とは、料理そのものだけではなく、その店の時間や思想まで写す仕事なのだと思う。
料理撮影の依頼については、 「料理撮影の依頼完全ガイド」でまとめています。
ラ・クレアシオン
住所:埼玉県草加市新栄1-13-5
サニーヒルズ103
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