ぴあ発行『東京老舗名店』の撮影で、両国のももんじやを訪れた。今回撮影したのは名物の猪鍋である。
創業は天明年間。江戸の獣肉文化をいまに伝える、現存最古のももんじ屋として知られている。店頭に掲げられた猪の剥製、壁に並ぶ古文書や看板が長い歴史を静かに物語るが、店内は整然としたテーブル席が中心で、空間はどこか凛としている。料理撮影では、この店の空気をどう写真に落とし込むかというところから考え始めることになる。
丹波篠山産の猪肉を使い、すき焼き仕立てで供される猪鍋は、赤身と脂身の境目が非常に美しい。ここをどう写すかが撮影の中心になる。照明の角度を何度も変えながら、脂の艶と割り下の照りが同時に出る位置を探していく。鍋料理の撮影では、光を強く当てすぎると脂だけが白く飛び、弱すぎると鍋全体が沈んでしまう。ストロボの光を細かくコントロールしながら、料理の“温度”が伝わる光を作ることが重要になる。
鍋からは湯気が立ちのぼり、割り下がわずかに泡立っているが、撮影ではその動きを追いすぎない。むしろ鍋の表面にある静けさを撮ることを意識した。歴史を重ねてきた料理ほど、派手な演出は必要ない。光を整え、色を整え、料理そのものの存在感をそのまま写す方が、その店らしい写真になる。
猪鍋は滋味深く、力強い料理でありながら、どこか品がある。その雰囲気を写真でどう表現するか。料理撮影では、料理の見た目だけでなく、その料理が持っている背景や時間まで理解して撮影することが重要になる。見た目を整えるだけではなく、料理の性格を写すこと。それが料理撮影の一番難しいところであり、一番面白いところでもある。
江戸の庶民が寒い夜に求めた“力の味”は、いまも形を変えずに残っている。その時間の積み重なりを、写真として記録することができた撮影だった。料理撮影とは、料理を写す仕事であると同時に、文化や歴史を写す仕事でもあるのだと思う。
料理撮影の依頼については、 「料理撮影の依頼完全ガイド」でまとめています。
ラ・クレアシオン
住所:埼玉県草加市新栄1-13-5
サニーヒルズ103
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